日本を出発した翌6月2日、トルコ最大の都市イスタンブールに到着しました。アジアとヨーロッパにまたがり、東西の文化の交流点として栄えてきたこの街で、ある地震被災者の男性を取材しました。
お会いしたのはムハンマド・サーレさん(26)。トルコ・シリア大地震後、イスタンブールで暮らしているシリア人です。
ムハンマドさんはもともとシリアのパルミラ出身で、夫とは古い友人でもあります。シリアが内戦状態になった後、安全を求め、2014年にトルコに逃れました。以来、シリア国境に近いトルコ南部のハタイ県アンタキヤで、母親と弟、兄の家族と暮らしながら、建設作業員として働いていました。
2月6日、トルコ・シリア大地震が発生。ムハンマドさん一家が暮らすアンタキヤは特に地震被害が大きかった街のひとつで、建物の倒壊によって多くの行方不明者、死者が出ました。
地震が発生した日、ムハンマドさんは友人を訪ねてイスタンブールに来ており、トルコ南部で大地震が起き、アンタキヤでも大きな被害があったことを知りました。家族と連絡が取れず、ムハンマドさんはその日のうちに飛行機でアンタキヤへと戻り、家族を探しました。しかしそこで知ったのは、同居する家族全員が、倒壊したマンションの下敷きになっているという現実でした。
地震後、多くの住人が建物の下敷きになったアンタキヤでは、人々を救助するための重機が圧倒的に足りませんでした。ようやく8日後に重機での捜索が行われた時には、ムハンマドさんの家族は全員が亡くなっていました。
アンタキヤ郊外の墓地に家族の遺体を埋葬した後、ムハンマドさんは、ショックから何も手につかなくなりました。被災地にいるのが辛く、友人の助言もあってイスタンブールへと移動しました。
(ムハンマドさんの部屋の壁に写真が飾られていた。写っているのは数年前のムハンマドさん。地震後、彼を励ますために友人が贈ったものだ。)
そこにはシリア人コミュニティがあり、パルミラ出身の友人も多いため、生活の援助を得ることができます。不動産業に関わる友人が無償で部屋を貸してくれ、ムハンマドさんを元気づけるため、友人たちが毎日彼のもとを訪れます。
(「趣味は筋トレ」というムハンマドさん。毎朝起きると必ず筋トレをする。気持ちがスッキリするらしい)
最近になってムハンマドさんは、イスタンブールの海を周遊する観光船の乗組員の仕事を夜間だけ始めました。生活を維持するためです。しかし、これからのことを何も考えることができません。家族や、それまでの生活を突然失った喪失感に、ムハンマドさんは苦しんでいます。大地震から4カ月。被災した人々の苦難は今も続いています。
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イスタンブールの後は、夫の家族が暮らすトルコ南部オスマニエ県オスマニエへと向かいます。
(取材には子供たちも同行。カメラの画角に入らないよう、子供たちにあっちにこっちに移動してもらいながらなんとか撮影した。ムハンマドさんには子供たちを暖かく見守っていただき、たくさん可愛がってもらった)
(2023年6月5日)