シリア・アサド政権による市民の弾圧と人道支援の実情〜ジャーナリスト、黒井文太郎氏のスピーチより〜
(こちらの記事は、シリア情勢を包括的に理解する上で大変学びのある記事のため、有料会員様以外にも公開させていただきます)
<この記事の内容>
現シリア・アサド政権とは? / シリア国内支援が難しいのは何故か / 北西部の反体制派地域をめぐる支援の実情 / シリア問題を理解するための前提
Stand with Syria Japan様主催のイベント「シリア危機を再考察する-アサド政権の残虐性に迫る-」に参加
少し前のことですが、2月23日に、シリア支援を手がけるNPO法人「Stand with Syria Japan(SSJ ・エスエスジェー)」様主催のオンラインイベント、『緊急セミナー「シリア危機を再考察する-アサド政権の残虐性に迫る-」』に参加しました。
イベントでは、シリアのアサド政権の戦争犯罪問題を専門とするジャーナリスト、黒井文太郎氏より、アサド政権の市民に対する弾圧の歴史、人道支援の実情についてスピーチがありました。大変勉強になる内容でしたので、ご紹介させていただきます。
▼イベントの主催団体、「Stand with Syria Japan(SSJ )」について
▼このイベントについて(2月23日に開催終了)
シリア国内及びシリア難民の支援を行うNPOは数多くありますが、こちらのSSJ(エスエスジェー)様の特徴は、アサド政権の戦争犯罪を明確に非難し、反体制側の立場から、国際平和実現のための取り組みを積極的に行なっている点です。
まずイベントの冒頭で、SSJ理事長の山田一竹氏より、以下のお話がありました。
○ シリア危機は「内戦」ではなく「人道危機」。国際平和の基盤を守るための戦いとして、シリアの民主化を応援している。
○ SSJでは、非政権支配地域アレッポに拠点を構え、シリア北西部で教育支援・人道支援をおこなっている。


その後、黒井文太郎氏によるスピーチがありました。黒井文太郎氏は軍事・諜報などを専門とするジャーナリスト。講談社にてフライデーの編集に携わった後、ニューヨークを拠点にジャーナリストとして活動、その後モスクワやカイロを拠点に戦場カメラマンとして活動されています。元妻がシリア人で、シリアの実情に大変詳しい一人です。以下、黒井氏のスピーチの内容です。
▼黒井文太郎氏 https://ja.wikipedia.org/wiki/黒井文太郎
「アサド政権の残虐性に迫る」ジャーナリスト / 黒井文太郎氏
この12年間、シリアでは戦争犯罪が続いてきた
グラフ1

こちらはイギリスに拠点を置くNGO「シリア人権監視団」によるもの。
この12年間のシリアでの紛争の者数は最低でも60万人ということなので、実際には60万人以上の人々が亡くなっているだろう。この60万人のうち、民間人が少なくとも23万人殺害されている。その加害者は第一がアサド政権とイランの配下のグループで、全体の87パーセントを占めている。その次が空爆を数多く行ってきたロシアで3.03パーセント。その次がISで2.21パーセント。圧倒的にアサド政権が人々を殺害している。
グラフ2

こうした逮捕や行方不明状態は、圧倒的に政権側によって行われた。政権によるものが87.60パーセント、135,253人に及ぶ。
グラフ3

不法に拘束をされて今も獄中にいる人のグラフ。アサド政権によるものが、全体の85.51%と圧倒的に多い。アサド政権、その次がISと続く。
グラフ4

捕まってから拷問を受け殺害された人の数、少なくとも14475人。加害したのはアサド政権が圧倒的に多い98.49%。その次がクルド、反体制派、ISと続く。
戦争なので、戦闘員同士は殺害しあっているが、民間人を巻き添えにする確率、また民間人を捕まえて殺害する確率は、アサド政権が圧倒的。ISも相当民間人を殺害しているが、アサド政権の比ではない。アサド政権が現地で支持されている、されていないという数字がよく出るが、現地の人々は政権の残虐さを間近で感じている。本当のことは人々は言えない。
なぜシリアへの支援が難しいのか
震災の支援を阻害する要因とは何か。6日に地震が起きてから、シリアに対し、各国から支援の申し出があった。しかしシリア国内は勢力によって政治的に分かれており、反体制派の武装勢力とアサド政権軍が睨み合っているので、その境界線は入れない。北側のトルコから国境を越えて反体制派の支配地域に入れるが、その道が今回ほとんど機能しなかった。
理由としては、トルコが被災地になり、支援のルートが止まってしまったこと。さらに政治的理由もある。シリア北西部の反体制派支配地域は、政治的に、外国からの支援が自由に入れないエリア。
紛争地帯なので国連が仕切ってはいるが、アサド政権は自分たちの国土だと主張している。そのためアサド政権からすると、そこにいる武装勢力は不法なテロリストということなので、物資の輸送を止めるようにとアサド政権側は主張する。
これに関して国連本部は、国連安保理で決める方針だが、国連安保理の一国であるロシアはアサド政権の後ろ盾として影響力を持っていて、「不法なところを自由に開くのはいかん」と圧力をかけて、制限しようとしている。国連本部でそう決まると、国連の下にあるさまざまな支援機関もそれに縛られる。結局、ロシアの意向がどうしても入ってきてしまう。こうして、シリア北西部の反体制派支配地域は、本来ならば国境を開けたくないが、人道支援なら少しだけ入れましょうというのが現実。国連の、ロシアへの忖度がある。
Read more