(この記事は、12/24〜1/13までのイギリス取材を写真で記録した記事です。こちらの記事は、「有料会員」以外の方にも公開しています)
ロンドン北部のヒンチュリーに暮らす兄、アブドュッサラームの家を拠点に、昨年、「不法移民」としてイギリスに入国した夫の兄や甥の取材を始めました。アブドュッサラームは、11年前にイギリスに渡り、イギリス人の女性と結婚し、安定した暮らしを送っています。
そのアブドュッサラームを頼り、昨年の冬、私の夫の兄アブドュルメナムと夫の甥エブラヒムが、「不法移民」としてこのイギリスに上陸しました。現在二人は、ロンドンから北に車で1時間ほど離れたミルトン・キーンズの難民収容施設に暮らしており、この二人がこの取材のターゲットです。二人は今、難民申請中で、難民認定を待っている段階ですが、入国して一年と 一ヶ月が経った今も、まだ認定が下りていません。さらにイギリスでは、欧州諸国のなかでも「不法移民」に対して厳しい処遇をとる方向性へと舵取りをしつつあり、今後やってくる「不法移民」に対し、イギリス本土への定住を認めず、ルワンダに送還する計画も国会で審議されています。こうしたなかで、難民申請中の兄たちは、どのように収容施設で今を過ごしているのでしょうか。
12月27日、クリスマスは過ぎたものの、日本からやってきた私たちをもてなすため、アブドュッサラーム兄が家族でクリスマスのお祝いの夕食を用意してくれました。その席にエブラヒムもやってきて、私たちは一年ぶりに彼に会うことができました。
(兄が朝食を作ってくれた。自炊を予想していたものの、私の動きを上回る効率の良さで、兄が食事の用意をする。聞けば、いつも奥さんよりも食事作りをしているそうで、料理は大好きとのこと。兄を観察すると、いつも動き回り、こまめに掃除をし、調理をし、洗濯物を干して畳んでいる。結婚している男性がそうした仕事までするのは、シリアの兄たちの家族やコミュニティでは考えられないことだ。「自分はただ、良き夫で父親であるように努力しているんだよ」とアブドュッサラーム兄。努力家で、働き者で、責任感が強い兄の姿を知り、兄がイギリスで安定した暮らしを手に入れた理由をそこに感じた。)
<エブラヒムと再会 雑記>
・エブラヒムは、私の夫の兄アーメルの息子。6人兄弟の長男で、昨年のトルコ出発時は13歳、現在14歳になっていた。
・エブラヒムは、昨年の8月24日にトルコ南部のオスマニエを出発し、11月1日にイギリスに入国した。ギリシャからはわずかに車で移動した区間もあったが、ほぼ徒歩でフランスまで移動し、フランスからはボートでドーバー海峡を渡り、イギリスに上陸した。ドーバー海峡では乗っていた船が沈没し、溺れそうになりながら泳いでひき返し、救助されたそう。ドーバー海峡を渡るのは命がけだった。
・エブラヒムがシリアで生まれてすぐ、シリアは内戦状態となっていき、エブラヒムの家族はシリア各地で避難生活を繰り返した。エブラヒムは、シリアでもトルコでもほとんど学校に通えず、アラビア語やトルコ語の読み書きもできなかった。イギリスでは今、毎日学校に通い、英語を学び、多くの友人を作っている。英語もすっかり上手になった。彼の人生が大きな変化を迎えているのを目の当たりにした。
・「イギリスでの生活はどう?」とエブラヒムに聞くと、「good」とのこと。「トルコでの生活と比較するとどう?」と聞くと、「別に同じだよ」と即答。少し間を置いてから、「トルコでの生活はすごく厳しかった」と答えた。その言葉の奥にある彼の感情を、丁寧に取材しなければと思った。13歳で家族から離れ、ギリシャから歩き続け、海を渡ってイギリスに来た彼の人生の劇的変化を、私もまた、理解するのに時間がかかるだろうと思った。
・エブラヒムは現在、一緒にイギリスに渡った彼の叔父にあたるアブドュルメナム(私の夫の兄)と同じ部屋で暮らしており、食事はアブドュルメナムが作っている。トルコにいる家族とは、毎日インターネット通話で連絡をとっている。「すごく家族が恋しいよ」とエブラヒム。
・エブラヒムが通っている学校は「クリスマス休暇」で1/6まで休み。今後、学校での勉強風景、友人たちと会話したり遊ぶ様子なども撮影したい。
(2023年12月30日)