2月24日から突如始まったロシア軍によるウクライナ侵攻。

ウクライナ各地では激しい戦闘が続き、すでに100万人近くが難民となって隣国に逃れた。この世界は、こんなにも不安定な均衡のうえに成り立っているのだ。

欧米諸国はロシアに対し、「武力侵略を容認しない」という強いメッセージを送った。異例中の異例という経済制裁も次々と課され、世界の厳しい目がロシアに向けられている。

ウクライナ。人は暖かく、大地は豊かで、詩的な美しさの漂う国。2008年、ユーラシア大陸横断の旅の途上、1週間ほど滞在した。首都キエフのドニエプル川を見下ろす高台で、夕暮れを寄り添うように眺めていたカップルの後ろ姿が忘れられない。

「揺れる大国 プーチンのロシア」

10年ほど前、あるNHKのドキュメンタリー番組を見た。「揺れる大国 プーチンのロシア」。2009年3月に4回にわたって放送され、書籍化もされた番組だ。現代のロシアを生きる人々の姿を追うことで、ロシアという全体像を浮き上がらせていた。

(https://www.amazon.co.jp/揺れる大国プーチンのロシア―NHKスペシャル-NHK取材班/dp/4140813830)

そこに登場した、初老のタクシー運転手の話が印象的だった。

「この国の歴史を知る者は、二度と国に背くことはしない」。

運転手はハンドルを手にしながら淡々と語っていた。過去にこの国で何が起きてきたか。どれほどの者たちが国に反旗を翻し、命を落としてきたか。ロシア人は皆それを知っているのだと。

番組全体を覆う重苦しい雰囲気から感じたのは、プーチンのロシアが、いかに維持されてきたかだった。かつての“強いロシア”への憧憬のもと、情報統制と監視を行い、越えてはいけない政治の一線を科すことで人々を繋ぎ止めてきた。

だが現代、世界はグローバル化・デジタル化によって急激に変化している。特にSNSのような世界的なネットワークは、メディアのあり方から個々の繋がり、社会のあり方までを内側から変えている。

このウクライナ侵攻でも、SNSを駆使した情報戦が繰り広げられている。戦闘の最前線がリアルタイムで投稿され、セレンスキー大統領自らが、スマートフォンでの自撮りという方法で、ウクライナ人はもちろん、敵国のロシア人に対してもSNS上で訴えかける。

いかに大衆に思いを訴え、彼らの心を動かし、具体的な行動へとつなげるか。コメディアン俳優、映画プロデューサー出身という異色の経歴を持つセレンスキー大統領は、それを誰よりも知っている。

このウクライナ侵攻によって、図らずもロシア自身が、自由主義という新しい価値観によって結果的に占領されるきっかけになるかもしれない。いくら力で押さえ付けても、インターネットによって多様な情報に晒される現代社会では、人の心の内まで抑えることはできないはずだ。

シリアからトルコに逃れたばかりの8歳の子供が描いた故郷シリアの絵。トルコ南部レイハンル、2015年。

8歳のシリア難民の子供による故郷シリアの絵。降り注ぐ爆弾、路上で亡くなる人々の姿が描かれた。2015年。

過熱するウクライナ報道への違和感

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