〝みんなのおじちゃん〟になる 〜在日コリアンの元プロサッカー選手、安英学さんの挑戦〜

在日コリアンのサッカー選手、安英学(アン・ヨンハ)さん

JR横浜駅から、閑静な住宅地にある見晴らしの良い高台を目指す。在日コリアンの元プロサッカー選手、安英学(アン・ヨンハ)さんとのご縁で、あるサッカースクールを訪ねるためだ。

安さんは在日コリアン3世。アルビレックス新潟や名古屋グランパスエイト、大宮アルディージャ、柏レイソル、横浜FCなどのJリーグでプレーし、南アフリカで開催された2010年のFIFAワールドカップでは、北朝鮮代表として出場。2017年に現役を引退してからは、サッカー指導者として活動している。

その安さんが代表をつとめる「ジュニスター・サッカースクール」は、「横浜朝鮮初級学校」と「神奈川朝鮮中高級学校」、つまり朝鮮学校の敷地内に練習場がある。朝鮮学校に通う在日コリアンの子どもを中心に、週に一回のサッカースクールを開いている。

「ジュニスター」とは、子供たちが星のように輝くようにと名づけた。サッカー技術の向上や試合に勝つこと以上に、人と人とが繋がり合い、出会う場となることを目指している。安さんが子供の頃は、在日コリアンの子供と日本人の子供が一緒にサッカーをする場がなく、安さん自身も、大学のサッカー部が初めての場だった。だからこそ、自分がその場を作りたいと考えた。

「在日コリアンの子どもも日本人の子どもも、みんな一緒にサッカーをする場を作りたいんです。子どもたちは本来、国籍やルーツに関係なく、人間対人間で向き合って、すぐに自然に仲良くなります。僕の役割は、そういう場を作ること。大人になってからより、子どものうちに出会ってお互いに仲間になれたら、彼らの間には差別や偏見もないんです」

スクールではまず、手と手を合わせ、互いにスキンシップを図る。コミュニケーションはスキンシップから、と安さん。「オモニ(お母さん)」、「ハッキョ(学校)」など、朝鮮語と日本語、二つの言語が飛び交っている。

みんなの〝おじちゃん〟になる

朝鮮学校に通う子供たちのルーツのほとんどが、朝鮮半島南部(現在の韓国)だ。だが学校では、北部(現在の朝鮮民主主義人民共和国)の言葉である「朝鮮語」を学んでいる。

安さんによれば、「朝鮮語」と「韓国語」は同じではない。「こんにちは」は朝鮮語で「アンニョンハシムニカ」だが、韓国語では「アニョハセヨ」が一般的。「朝鮮語」はより古風で、「韓国語」はより新しい表現が多いらしい。

多くが南部にルーツを持つ在日コリアンの子供たちだが、学校で北部の言葉を学ぶのは、かつて朝鮮民主主義人民共和国の支援を受けて、学校が運営されてきた事情があるからだ。現在は時代も流れ、政治的なことには重点を置かず、自分たちのルーツは〝統一コリア〟という流れを学んでいる。

安さん自身も朝鮮学校で学んだ一人。苦労して学校を建て、民族の文化を守ろうと尽力した先人たち、学校運営を支援してきた朝鮮民主主義人民共和国への感謝の気持ちも大きい。だが、「我々のルーツはひとつのコリア」だと安さんは言う。

在日コリアンとして、複雑な背景を持って生きなければならない子供たちには、自らのアイデンティーを学びつつも、多様な世界に飛び込み活躍する人材になってほしいと願っている。

「彼らの身近にいて、何かあったときは頼れる存在でありたいです。彼らの親のようにはなれないけど、〝親戚のおじちゃん〟くらいにはなれると思うんです」と安さん。

安さんの視線の先では、在日コリアンの子供と日本人の子供が、楽しそうにボールを追いかけている。自らが願う未来に、安さんは生きている。

安英学さんのスクールを見学して 裏話

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