アラブ社会において故郷とは、土地そのものではなく、
自分が生かされてきた「人間の連なり」を指します。
2011年、市民による民主化運動から始まったシリア内戦。
「今世紀最悪の人道危機」と呼ばれる騒乱の中で、
私の夫、および彼の家族もまた、故郷を追われ難民となりました。
ひとくくりに「難民」と称される人々にも、一人一人唯一無二の物語があります。
本書は、私が彼らとともに歩んだ、5年間の記録です。
第23回開高健ノンフィクション賞受賞。
ドキュメンタリー写真家としてヒマラヤの頂を目指した著者が、次に見つめたのは「沙漠の民」の暮らしでした。
シリアの沙漠で出会った70人の大家族。その十二男と恋に落ち、難民となった彼と結婚。 秘密警察の監視、親族による軟禁、および2024年12月のアサド政権崩壊……。
「どんなに過酷な状況にあっても、微かな光はある。それを信じ続け、探し続けたい。」
- 贈賞式スピーチより
2024年1月、フランス・カレー。ドーバー海峡を渡る移民たちの記録。
次男を可愛がってくれたエイハム。船出した彼は、沈没事故により帰らぬ人となった。
「NEVER GIVE UP UK」。イギリスを目指す移民たちが野宿する壁に残された言葉。
「移民・難民」という立場へ追い込まれていく人々のありのままの姿。
最後の希望にすがるように旅を続けていた彼らの思いを、私は忘れない。
選考委員、大絶賛。 - 第23回開高健ノンフィクション賞 選評より
「書き手自身を取り巻く『人間』を、シリアの政治と歴史への深い理解とともに厚みをもって描ききった。」
加藤 陽子
Historian / Univ. of Tokyo
「大家族の幸せな記憶、その一瞬の光芒が眼前に浮かんできそうだ。名作である。」
姜 尚中
Political Scientist
「もはや言葉にすらできぬ過酷な日常を現実として生きた/生き続ける女性がいる。」
藤沢 周
Author
「世界が抱える矛盾を独自の視点で描ききった秀作。」
堀川 惠子
Non-fiction Writer
「秘密警察も移民となったシリア人も政府軍兵士もイラン軍兵士も、すべて等身大の人間として描かれている。」
森 達也
Film Director / Author
※五十音順 / 選評より抜粋
長い年月をかけてシリアの家族と歩み、文字の隅々にまで祈りを込めて綴った言葉たちが、ようやく一冊の形となりました。
新宿の大きな書店。多くの本が並ぶ棚の中で、ピカピカのカバーを纏い、新しい旅を始めようとしている『シリアの家族』。
「行ってらっしゃい。大事にされるんだよ」。
著者が心の中でそう声をかけたその日から、この物語はあなたの手元へと届く準備を整えています。
小松 由佳
難民となること、故郷を失うこと、人間とはどういう存在なのか。