トルコ・シリア地震 帰国後の取材報告レポート♯1 〜レイハンルの地震被災者キャンプ、ケーンマウラーキャンプ〜

被災したシリア人をめぐる問題

6月に行った地震被災地のトルコ側の取材では、特に地震被害が大きかったトルコ南部のハタイ県を訪ねました。

(写真はいずれも、ハタイ県の県都アンタキヤにて撮影。高層マンションや家屋の多くが倒壊し、甚大な地震被害があった)

ハタイ県などトルコ南部には、2013年頃から多くのシリア人が難民として暮らしており、今回の地震でも多くが被災しました。こうしたシリア人被災者への対応が、現地では大きな問題になっています。

トルコでは、コロナ後の物価上昇を受け、大量に流入したシリア難民への不満が高まっており、難民をめぐる処遇が今年5月に行われた大統領選でも大きな争点にもなりました。

こうしたコロナ後に拡大した「反シリア人感情」が、現地のシリア人地震被災者への対応にも大きな影響を与えているようです。

例えばハタイ県では、(トイレやシャワー、台所などが付属した)コンテナハウスからなる公営避難所に入所できるのはトルコ人のみで、シリア人は入所できず、支援に大きな格差が生まれています。

(ハタイ県の公営被災者キャンプ。トルコ人のみ入所可能だ)

シリア人は自分でテントや生活用品を用意し、自分で空いているキャンプを探して入所しなければならず、法によって守られることのない立場の弱さが、地震後、特に表面化しています。

地震被災者のシリア人キャンプ、ケーンマウラーキャンプ

こうしたなかで訪ねたのが、ハタイ県レイハンルに造られた地震被災者キャンプ、ケーンマウラーキャンプです。入所しているのは全員がシリア人で、約70張りのテントに250人ほどが暮らしていました。

そのほとんどが、被害が大きかった県都アンタキヤからやってきた人々です。暮らしていた家が倒壊したり、家族を失くした人もとても多く、大怪我をして療養している人もいました。また、地震の影響を受けなかったものの、トルコ人家主によって貸家を追い出され(代わりに被災した親族を入居させた)、避難している人々もいました。

(シリア国境の街レイハンル。郊外の山の中腹に、国境のコンクリート壁が見える。その麓にケーンマウラーキャンプがある)

(ケーンマウラーキャンプ入口。郊外の空き地をレイハンル市から借りあげ、被災者キャンプを作った)

(NGOからパンが配布され、喜ぶ子供たち。このキャンプでは毎日パンが配布される。ときどき水や食料も配布されるとのこと)

(キャンプでサッカーをして遊ぶ子供たち)

キャンプを設立したのはトルコ人とシリア人の二人のオーナーで、行き場がなく路頭に迷っているシリア人被災者のため、地震から約一カ月後に、市から土地を借り、このキャンプを建設しました。

入所者は、テントや寝具などの生活用品を持ち込む必要があるものの、電気や水道、トイレ、24時間お湯の出るシャワー、洗濯機、台所などを使うことができます(ただしトイレやシャワー、洗濯機など数が少なく不便である)。

(入所者が暮らすテントの内部の様子。このテントに2家族が暮らしている)

(食器の洗い場)

(洗濯機が置かれたテント。250人の入所者に対し、洗濯機は3台のみ)

テントの学校

キャンプの一画に、テント製の学校がありました。中に入ると、机や椅子、ホワイトボードが並べられ、平日の午前中、6〜12歳ほどの子供たちがここで勉強をします。

授業中はテント内が高温となり大変暑く、子供たちがじっと座っているだけでも大変です。毎日学校に来るのは20〜30人ほど。学校の教師は二人おり、彼らもここに暮らす地震被災者です。

(英語の授業の様子。トルコの小学校では英語を学ばないが、シリアでは必須だったらしい)

教師の一人、モナ先生による英語の授業を見せてもらいました。もともとシリア中部のハマで小学校教師だったモナ先生は、トルコに来てからは10年近く専業主婦でしたが、地震後、子供たちに教育の機会を作りたいと、ボランティアで教壇に立っています。

「被災したシリア人の子供たちには教育の場がありません。学ぶ場が無くならないよう、私ができることで彼らを助けたい」。モナ先生はそう話します。

突然学校に現れた私たちに、子供たちは驚き、喜んだりでガヤガヤし、授業どころではなくなりました。英語の授業中だったため、英語で自己紹介をし、二人の息子たちと一緒に授業を受けることになりました。

キャンプの子供たち

キャンプに暮らす子供たちのなかには、地震で家や家族の誰かを失った子供もいましたが、そうした悲惨な境遇や悲しみをあまり感じさせない表情の豊かさがありました(このことについて、私はもう少し自分の頭の中で考えたいと思っています)。子供たちはみな好奇心が強く、先生の話をあまり聞かず、打たれ強く、天真爛漫でした。

テントの学校が蒸し暑く、じっと座っているのが困難なため、子供たちは授業中、20分おきに水を飲みに自分のテントに戻ります。しかしそのまま学校に戻らず、遊びに出ていく子供も。

(キャンプで輪になり遊ぶ子供たち)

キャンプに暮らす子供たちの楽しみは、組み立て途中のテントの骨組みにぶら下がり、鉄棒をすることや、テントの上に登って跳ねること。落ちれば大怪我をしますが、「危ないからやめなさい」とは誰も言いません。子供は危ないこともたくさん経験し、その危なさを自分で学ぶことが求められているようです。

(建てている途中のテントで、骨組みにぶら下がって遊ぶ子供たち)

一方、子供たちのコミュニティでは、大きな子が小さな子をしっかりと見守ります。小さな子を、近所の年上の子が抱っこしていたり、一緒に連れて遊んでいたり、というのが当たり前の光景です。こうした子供たちの世界に大人は必要以上に干渉せず、子供たちはある意味独立した存在です。

(テントの上に登りたい次男サラーム。手を伸ばし、お兄ちゃんたちに引っ張り上げてもらった)

私たちは長男のサーメル(7歳)と次男のサラーム(5歳)とともに、このキャンプで一週間テント生活を送りました。息子たちはその間、キャンプの子供たちと一緒に時間を過ごしました。

(キャンプで寝泊まりしたテント。(株)モンベル様からご提供いただいた)