トルコ大地震、現地からのレポート(2023年2月13日)

(こちらの記事は、有料コンテンツの内容ですが、多くの方に関心を持っていただきたい内容のため、一般公開させていただいております)

6日にトルコ南部で発生した大地震から一週間が経過しました。犠牲者の数は日増しに増えており、最終的に犠牲者の数は五万人近くまでのぼるのではという、国連事務次長の見解も発表されました。

シリアとトルコ、両国にまたがって起きたこの地震では、両国に甚大な被害が報告されています。またトルコ南部では、戦争から逃れてきたシリア難民がかなり被災しています。

地震の被災地域は、まさに私が2015年以降取材を重ねてきた地域であり、親族や知人も被災しているため、現地の状況と合わせてシリア難民の現状をご報告していきたいと思います。

地震の被害が大きかったトルコ南部ハタイ県、県都のアンタキヤやシリア国境のレイハンルでは、多くのシリア難民が避難生活を続けています。

以下、複数の知人に12日にインタビューをした内容となります。

e230213 3のコピー 1 トルコ大地震、現地からのレポート(2023年2月13日) トルコ大地震、現地からのレポート(2023年2月13日)
今回の地震で大きな被害があったトルコ南部オスマニエ県オスマニエ市。建物のほとんどがコンクリートブロック製だった。かつて、シルクロードの中継地として栄えた歴史ある街である。

<地震後の支援、生活についてインタビュー(トルコ南部ハタイ県)>

—–現在の生活状況はどうですか?

レイハンルやアンタキヤでは、新築の建物を除き、かなりの建物に大きな亀裂が入ったり、壁や天井が壊れており、そのまま暮らし続けることができない状態です。多くが、倒壊の危険のない親族や知人の家に身を寄せあったり、道路脇の空き地や広場、公園でテントで寝たり、車の荷台で寝ています。とにかく寒くて辛いです。

—–支援は?足りていないものは?

支援機関からの食糧と水の配給はあるが、暖を取るための薪や炭、毛布がとにかく足りません。非常に寒く、寒さから命を落とす人(地震で怪我をしていた)、流産する妊婦も周囲で出ています。

また、トルコ系の支援機関の場合、食糧や水の配給はトルコ人が優先され、シリア人は後回しにされたりもらえないこともあってトラブルになっています。海外の支援機関ではそうした区別はなく、トルコ人もシリア人も平等に配給されています。

一番必要なのは寒さを凌ぐための毛布や、火を焚くための薪や炭です。薪はトルコ人には無料で配布されるがシリア人には配布されず、シリア人は自分で買わなければいけません。しかもすごく高価なのに加え、一回に20キロほどしか売ってもらえず、みんな寒さで震えています。

薪は地震の前は1キロ3トルコリラ(2023年2月13日現在、約24円)でしたが、今は1キロ3ドルほどに値上がりました。トルコ系の支援機関が大量に買い占めて、トルコ人にだけ配布しているのも目にしています。

炭は一袋25キロで地震前は140トルコリラ(約1120円)、今は約300トルコリラ(約2400円)です。

*薪と炭は、通常同時に使う。価格はレイハンル・アンタキヤでの価格。ちなみに地震前のこの地域のトルコ人の平均月収は日本円で約45000円。シリア人の平均月収は約25000〜30000円だった。

——緊急時の支援の場でも、トルコ人とシリア人では、支援に区別があるという話に驚きました。

ここ(被災地)では公然のことです。地震前からシリア人は差別されてきました。地震の後も、病院ではトルコ人の患者が優先されますし、食糧や水、全てに至るまで、シリア人は後回しになります。

病院では、大怪我をしたトルコ人はヘリコプターで別の病院に搬送されたりしますが、それがシリア人の場合、されません。またシリア人の多くは、重症であるにもかかわらず入院が認められず、暖をたけない状態の家に返され、寒さのためにかなり衰弱しています。

アンタキヤでは、被災者のための避難所がつくられましたが、トルコ人のみが利用でき、シリア人は利用できません。公的なサービスも、明確にトルコ人とシリア人を区別しています。

まあ、ここはトルコ人の国なのです。しかし、地震前からシリア人に向けられていた区別が、この災害によってより強くなったと感じます。多くのシリア人はそれについて怒りを感じていますが、どうしようもできません。

e230213 2のコピー2 トルコ大地震、現地からのレポート(2023年2月13日) トルコ大地震、現地からのレポート(2023年2月13日)
トルコ南部オスマニエ県オスマニエ。夫の親族が暮らしていた家から撮影した一枚。親族の家も周辺の家も、かなり建物が崩れたと聞いている。

——公的な支援を受けられにくいということでしたが、シリア人同士で助け合いはありますか?

はい、シリア人同士で、安全な家があれば親族や知人を受け入れたり、食糧や衣類や毛布などを分けあったりと、助け合っています。我々は助け合うことしかできませんから。アンタキヤにはシリア人の行方不明者がまだたくさんおり、こうした行方不明になっているシリア人の友人の捜索も手伝っています。遺体が見つかれば、現実に打ちひしがれている家族に代わり、埋葬の手伝いも進んでします。皆、自分ができることで助けを必要としている人の役に立とうとしています。

——困っていることはありますか?

トルコ人とトラブルになることが増えてきました。配給でも、トルコ系の支援機関だとシリア人だけもらえなかり、避難場所もシリア人だけ利用できなかったりで、こうした区別からトラブルが起きています。

また私たちも(小松のシリア難民の友人)、アンタキヤで行方不明になっている友人の家族の捜索に行き、建物が倒壊した現場で、重機で掘り起こす作業を依頼しました。しかし埋まっているのがシリア人だと分かると後回しになり、トルコ人の犠牲者の捜索が優先されました。それについて抗議したところ、私の兄はトルコ人の集団に殴られ、鼻の骨を骨折しました。犠牲者がシリア人だと、重機での捜索も後回しになります。ひどいことです。

——今後の生活についてどう考えていますか?

どうすればいいか全く分かりません。この先のことを考える前に、今を乗り切ることで頭がいっぱいで、まだ先のことを落ち着いて考える余裕がありません。住んでいた家は壊れてしまったので家を探さなければいけませんが、十分なお金もなく、仕事もなくなりました。しかもシリア人は移動が制限されているので(トルコではシリア人の大規模な移動を規制するため、難民として登録された県から出るために許可が必要で、自由な移動ができない)、県外に暮らす親族のもとにも行けません。

——コロナ後、難民としての保護を求めてヨーロッパに移動をするシリア人が目立ちました。この災害により、ヨーロッパ移動を希望するシリア人は増えるでしょうか?それともトルコでの生活再建を考えるでしょうか?

正直なところ、本当に望んでトルコに暮らし続けたいシリア人はほとんどいません。地震前からかなりのシリア人がヨーロッパに移動することを希望していました。でもそれは高額なので、現実的にできないというだけです。

実際、これからヨーロッパへ移動するシリア人はもっと増えると思います。お金に余裕がないシリア人は、トルコで生活を続けるしかないでしょう。

—–地震で被災した人々にとり、シリアに帰るという選択肢はありますか?

帰る人も増えると思います。シリアに帰るということは、生活レベル(シリアでは電気、ガスの供給が不安定。教育環境も整っておらず)や将来の可能性(一度シリアに帰ると、トルコに出てくるのは非常に困難になる)をかなり落とさねばならず、ひどい暮らしを続けるということです。だからトルコに逃れた多くの人は、トルコでの生活再建を努力してきました。しかしトルコは物価が非常に高く、暮らしていくのが大変です。さらに地震で家もなくし、仕事もなくなり、トルコ政府にも我々はトルコ人のように守られません。

シリアに帰っても、トルコにいても、生活が厳しいのは同じです。どちらがマシか、という感じです。

それでもシリアに帰ってしまったら、家族でトルコに戻ることはほぼできなくなるので、子供たちの将来のために、私自身はやはりトルコに残って、厳しい生活を続けることを選びます。

——今、どのような支援を必要としていますか?

やはり、寒さが大きな問題です。毛布や薪、炭を買うための支援を最も必要としています。寒くて子供たちが病気になっています。病気になっても、病院は怪我人で溢れていてみてもらえず、薬も買うことができません。シリア人は地震前は、難民のIDがあれば薬代や医療費は無料でしたが、地震の後は薬代も医療費も支払いが必要となりました。

実際、かなりの人が地震で崩れてきた建物によって怪我をしていて、薬や医療品を買わなければいけません。しかしそれらはとても高価で、買うことができずにいます。地震で命が助かった人も、寒さや医療ケアが受けられないことで衰弱しています。本当に、ひどいことが起きています。

(2023年2月12日 インタビュー:

ムハンマド・サリーム(レイハンル))

アブドュルラフマン・メイヤッド(アンタキヤ)

ジャーラッラー・ジャーラッラー(レイハンル)

記録:小松由佳)

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オスマニエ市で目にしたモニュメント。

〜最後に、懸念していること〜

シリア難民のインタビューから、現地ではトルコ人が支援現場において優遇され、シリア人は区別を受けていることを聞きました。皆同じく被災しているので、もちろん同じく支援を行うべきではありますが、現地でのやり方、考え方もあるのだと思います。物資が必ずしも十分ではないなか、まずは自国民を優先して守る、というトルコ側の立場も、ある意味理解できるところです。しかし行政がそれを主導してしまうのは、やはり残念でなりません。また、被災後の緊急事態において、こうしたシリア人への区別が露骨に見られることで、ますます両者の対立感情が拡大していくのではないか、それが結果的にシリア人のトルコでの生活再建をよりしにくくしていくのではないかと気になりました。人間が共存するということの、きれいごとだけではない難しさを感じています。

小松由佳