写真展「シリア難民 母と子の肖像」を終えて(2021年12月10日〜16日開催 富士フォトギャラリー銀座にて)

月日の流れはただでさえ早い。だが、自分が持てる全てを投入した時間は、流れ星のように一瞬の煌めきで終わる。今年もそんな時間を持つことができた。

2021年12月、2年ぶりに写真展を開催した。小松由佳写真展「シリア難民 母と子の肖像」。トルコ南部に暮らすシリア難民の、特に母と子の関係性に焦点を当てた展示だ。イスラムの格言には「天国の門は母親の足元にひらける」という言葉がある。イスラム社会において、母親の役割は家庭を守り、子供を産み育てることとされ、とりわけ子供の人生に対して母親に課される責任や役割が大きい。そうしたイスラム文化のシリア人の母たちは、難民となったことで、さらに多くを抱えなければいけなくなった。とりわけ生まれてから死ぬまで、母と子が一体としてあるシリア人の母子には、父と子の関係性にはない深い繋がりがある。難民という不安定さを一手に引き受けているのは、父親よりもむしろ母親たちだ。会場では、こうした視点から垣間見た母と子の関係性から、難民という立場、さらに彼らが抱えているものを感じとり、内戦が人々に何をもたらしたのかを考える場にしたかった。

写真展は2つのギャラリーを使った。一つ目のギャラリーでは、難民の生活風景をカラー写真で表現した。さんさんと太陽の輝く、緑豊かなトルコ南部に難民が暮らしている。これは外側から見たシリア難民の姿だ。そして次のギャラリーでは、やや暗めの照明の下に、モノクロ写真で構成された母と子の写真が並ぶ。これらは内側から見たシリア難民の姿で、彼らの心の内に迫っていく意図がある。

表現したかったのは、難民たちの全体像でも、明瞭で綺麗な写真でもない。難民としての、曖昧で、不条理で、不安定な立場そのものだ。そのため懐中電灯という、光量も動きも「一定ではない」光源で、彼らの一面だけをわずかに浮かび上がらせた。そして光が当たらない部分に、私たちが「写真のその奥にあるもの」を想像する素地を残した。

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