シリア情勢の重大な転換点になるか〜反体制派のアレッポ、ハマ制圧〜

(こちらの記事は、有料会員以外の方にも公開の記事とさせていただきます。またこちらの内容は、難民として国を離れ、反体制派支持者である夫とその兄の意見であり、政権支持者とは全く異なった見解を持っているということを事前に付け加えさせてください)

12月8日現在、シリア情勢が重大な局面を迎えています。2011年以降、内戦状態となっているシリアにおいて、11月末から反体制派がアレッポ、ハマを制圧し、中部の要衝ホムスへと南下を続けています。彼らはその目的を〝政権打倒〟と明確に掲げています。

この状況は、シリア人の夫を持ち、この13年ほどシリア難民をテーマに取材をしてきた私にとっても目が離せない状況です。2012年に難民となり、現在はシリア国外に暮らす夫やその兄が、この情勢をどう考えているのか話を聞きました。

image シリア情勢の重大な転換点になるか〜反体制派のアレッポ、ハマ制圧〜 シリア情勢の重大な転換点になるか〜反体制派のアレッポ、ハマ制圧〜
(読売新聞の記事より)

シリアで起きてきたこと

11月27日、シリア第二の都市アレッポに反体制派が進軍し、わずか3日間でアレッポを占領しました。反アサドを掲げる勢力がこの街に入るのは、実に2016年以来のこと。この動きに、シリア国内はもちろん、国外のシリア難民も報道を注視しています。

シリアは2011年以降、内戦状態にあり、現在は主に4つの勢力が国内を分割統治しています。

2011年、「アラブの春」の機運がシリアでも高まり、独裁体制下に置かれ続けてきた人々が、自由な政治参加を求めて運動を繰り広げます。しかし、政府が武力でこれに弾圧を加え、多くの市民が死亡したことで、市民も武装して対抗する道へ。やがて様々な思惑を持った反体制派が次々と生まれ、シリアは泥沼の内戦状態に突入していきました。

その過程で、政府は市民に対し化学兵器を使用したとの疑いもあり、またシリア北部でのイスラム過激派組織IS(イスラム国)の台頭、政府軍とロシア軍による激しい空爆なども続き、多くの死者、難民が生まれ続けました。かつての人口2240万人中、難民・避難民を合わせ、その半数にのぼる1450万人が生活を失ったとされています。

こうした中で、アサド政権を軍事的に支援してきたのがロシアとイラン、それにレバノンの武装組織ヒズボラでした。特に、2016年以降のロシア空軍による軍事支援は、アサド政権による支配を支え、反体制派はほぼ壊滅状態に陥っていました。 

しかし、こうしたアサド政権への協力者であったロシアやイラン、ヒズボラが、それぞれにシリアでの影響力を失いはじめ、その均衡が崩れていきました。

image 1 シリア情勢の重大な転換点になるか〜反体制派のアレッポ、ハマ制圧〜 シリア情勢の重大な転換点になるか〜反体制派のアレッポ、ハマ制圧〜
(パルミラとホムスを繋ぐ道沿いにあった、アサド大統領とプーチン大統領の連隊を示す看板。2022年撮影)

ロシア軍は、長期化しつつあるウクライナ侵攻により力を失いつつあり、ヒズボラは、イスラエルとの衝突によってに多くの戦闘員を失い、またシリア国内のイラン軍も、イスラエルとの関係悪化から、イスラエルによるピンポイントの空爆を受け、国外へと退避し始めていました。こうして、アサド政権の協力者たちが力を失っているこのタイミングを、反体制派は好機と見たのです。

12月8日現在、反体制派は北部の都市アレッポに続き、中部のハマも制圧し、まもなくシリア第二の都市ホムスの中心部に迫ろうとしています。アサド政権の崩壊が間近に迫っていると報じるメディアもあり、シリア情勢は重要な局面を迎えています。

以下は、我が家に一カ月半にわたって居候中(!)の夫の兄ジャマールと夫ラドワンに、このシリアの情勢についてインタビューをした内容です。

アレッポ、ハマを制圧した反体制派

小松

「シリアでは、反体制派の進撃が続いている。気が気じゃないのでは?」

ジャマール兄

「ニュースは5分おきにチェックしている。気になって仕事どころではない」

小松

「どのように報道を確認しているのか?」

ジャマール兄

「パルミラの同郷の友人たちが、この反体制派に多数加わっている。彼らはFacebookからリアルタイムで最前線の情報を発信しているので、それを見ている。彼らによる投稿が、どこのメディアよりも情報としては早い」

https://www.facebook.com/reel/547660368140813?fs=e&s=TIeQ9V

(フェイスブックの投稿より。ハマを制圧した反体制派の兵士たちを迎え入れるハマの人々)

ラドワン

「反体制派の攻勢は本当に嬉しい。アレッポを制圧したのはすごいこと。シリア人はみんな喜んでいるし、このままダマスカスまで攻め込んで、アサドを失脚させてほしい」

小松

「今回の反体制派の進撃が、シリア情勢にとってこれまでにない、非常に重要な局面だと、なぜ感じているか?」

ラドワン

「イドリブもアレッポもハマも、内戦状態になって以来、初めて反体制派が完全に掌握したからだ。アレッポは、シリアの経済の要衝なのに、あっという間に彼らの手に落ち、しかも誰も政府軍を真剣に支援しなかった。ハマも同様だ。イラン軍、ロシア軍も少し来たが、そんなに力を入れていないと感じる」

小松

「この反体制派について、彼らを「テロリスト」、「アルカイダ系」などと報じる日本のメディアや専門家もいる。シリア人としては、どう考えているのか?」

ジャマール兄

「彼らがテロリスト?、そうは思わない。彼らはテロリストでもアルカイダでもない。大体、この反体制派に制圧された市民たちは、誰も逃げていない。市民たちはむしろ、彼らを迎え入れている。それが、彼らがテロリストとはい言えない何よりの証拠だ。市民の心は、政府軍にではなく、反体制派のほうにある。

彼らをアルカイダだ、テロリストだと呼ぶのは、無知だからだ。大体そう呼ぶ人は、シリア人でもなく、ムスリムでもないでしょう?」

ラドワン

「反体制派は確かにムスリムが圧倒的に多い。しかし、アレッポのキリスト教徒が多い地区を制圧した際、彼らは何も手を触れていない。彼らが戦っているのは、宗教的な目的からではなく、あくまで政権の打倒のためだ。反体制派の指導者たちは、政権を打倒したら自分たちは解散するとまで言っている。

それに、南部スウェイダで街を制圧した反体制派の大部分はムスリムではなく、ドルーズ教徒。アレッポやハマ制圧に参加した反体制派の兵士も、数は少ないがクリスチャンだっている。だから、彼らをアルカイダ系だ、テロリストだ、とするのはおかしいと思う。彼らは宗教ではなく、政治によって団結している」

反体制派が攻勢に転じた理由

小松

「どうしてこのタイミングで、反体制派が勢力を盛り返したのか?」

ラドワン

「やはり、ロシアとイランとヒズボラが、ダメージを受けたことが大きいと思う。イスラエルはレバノンのヒズボラと、シリア国内のヒズボラを徹底的に潰した。ヒズボラはこれまで、シリア政府をものすごく支援してきたが、最近、リーダー級の人がみんな亡くなり(ポケベルや無線機の爆発による)、組織として大打撃を受けた。またイスラエルは、シリア国内のイラン軍の駐屯地を爆撃し、イラン軍を追い出した。ロシアは直接攻撃されていないが、以前に比べると、ロシア軍はアサドを支援しなくなったと感じる」

ジャマール兄

「反体制派はその隙を突いた。アサドの協力者たちが打撃を受けている今がチャンスと見たのだろう」

小松

「今、シリア南部の反体制派も力を盛り返し、ダラーで街を制圧したと聞いている。しかし政府軍は、空軍を持っている。反体制派は空軍を持たないから、空爆による攻撃を受けたら厳しいのではないか」

ラドワン

「反体制派もドローンを駆使して、政府軍に小規模な空爆を繰り返している。政府軍はこれまでヘリコプターと戦闘機を使っていた。しかし、なんと言っても政府軍は士気が低い。反体制派の兵士たちは、自分たちの土地を守ろうとして戦っているから、政府軍兵士と全く士気の高さが違う。

このまま彼らは、首都のダマスカスに入るだろう。そう信じている。そしてアサド大統領は失脚し、国外に逃れるのではないか。行き先は、恐らくロシアだ」。

ジャマール

「政府軍はいま、すごく困惑している。あちこちで反体制派が力を盛り返して戦闘が起き、収拾がつかなくなっている」

ラドワン

「この動画を見て。ホムスは、反体制派が郊外に迫っていて、まもなく中心部も制圧するもしれない。市民たちは、街が制圧された後のことを考えて、アサド大統領の写真を車から剥がしている。みんなのいるところで大統領の写真を剥がすというのは余程のことだ。それだけホムスの人々は、反体制派による制圧は時間の問題だと考えているのではないか」

ラドワン

「反体制派のこの動きを、シリア人の大多数が歓迎していることを忘れないで。彼らをテロリストとか、アルカイダ系とか、呼ばないでほしい。これはシリア人による、自分たちの土地のための戦いなんだ」

(参考になるニュース報道)

 シリア反政府勢力、ホムスへ進軍 イランとヒズボラはアサド政権支援

https://jp.reuters.com/markets/commodities/HMMKHHI5C5N4BBFAI4MRMTFAWE-2024-12-06

シリア反政府勢力 主要都市ホムスに向け進攻 戦闘激化が懸念

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241207/k10014661091000.html

 アサド政権、深まる苦境 南部でも蜂起、主要都市の陥落相次ぐ

https://news.yahoo.co.jp/articles/f07f98e68c751230de0b6486a819c19ddf0e8e9e

シリア反政府勢力が進軍、アサド氏とイランは厳しい選択-今後を読む

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-12-03/SNWZSODWX2PS00

(2024年12月8日)

4 Replies to “シリア情勢の重大な転換点になるか〜反体制派のアレッポ、ハマ制圧〜”

  1. 大変興味深いレポートをありがとうございました。
    以前のレポートで、イスラエルがヒズボラに打撃を与えていることに、以前ヒズボラから辛苦を舐めさせられたシリアの反体制派は喜ばしく思っているという報告を読み複雑な思いになったことを思い出しました。
     ヒズボラはレバノンでは多くの市民に支持されている団体で、欧米の報道のようなテロリスト集団と言うだけではない事や、シーア派にも関わらず、スンナ派の、虐殺され続けているパレスチナ ガザ地区の人々、またはハマスを援助していた集団。
     しかしシリアでは、シーア派のアラウイー派アサド政権の側に付き、スンナ派の国民を苦しめてきた集団。だから、同じスンナ派のパレスチナを応援しているとは言え、過去の歴史からヒズボラには敵対心がある。

     こんなふうに、すでに宗教を超えた憎しみの連鎖が絡まりあっていることに哀しみを覚えました。
     そして、他の裕福なアラブ諸国は、今は宗教よりも民族よりも、経済的結びつきを大切にしているようです。それはどんな文化の国でもそうなってしまうのでしょうけれど。

     来年、米国のトップが変わったら、また大きな変化が出てくるでしょう。それは各民族や宗派や国家が、どちらの大国に、ロシア、米国、欧州、中国に近いかによって、力関係が動いてゆくのでしょう。やるせないが、いつもそうですね。
     その時、シリアをはじめ多くのあの地域の人々が、これ以上の戦火に見舞われない事を祈っています。
     女性の立場からは大いに突っ込みたい、突っ込みどころのある文化ですが、私は彼の地域の文化がとても好きですので。
     

  2. 由佳さん、貴重なアップをありがとうございます。会社の同僚からも「シリア大変な状況になってきたね」と、声をかけられた直後でした。
    ニュースからはなかなか私達には届かない生の反体制からの声、しかも由佳さんが直接対話をした貴重な記事です。
    これからのシリアをニュースから、また由佳さんを通して見続ていきます。
    取材に出発されているとの事、サラーム君共々、元気に帰国されるよう祈っています。

  3. 小松由佳 様

    札幌の長澤幸雄です。
    PHOTO ESSAYをいつも待ち遠しく(なぜか懐かしく)拝読させていただいています。
    ご多用の中のリアルタイムレポートに感謝いたします。

    日本のマスコミでは得られない今回のPHOTO ESSAY、お義兄さまのメッセージに、驚き(ビックリ)して、読ませていただきました。

    小松様 みな様のご健康を祈念しています。いつも。

    PS
    画面がとても見やすく読みやすいです!

    2024年12月8日11:01