6月10日に公開されたアフガニスタン難民のドキュメンタリー映画「FLEE(フリー)」。是非多くの方に見ていただきたい素晴らしい作品だ。

『FLEE(フリー)』 https://transformer.co.jp/m/flee/

本作の英題である“FLEE”とは、危険や災害、追跡者などから(安全な場所へ)逃げるという意味。

難民とはどういった存在なのか。葛藤や苦しみ、恐れ、不安、絶望感などが、登場人物の細やかな心情の変化によって描写され、やがて見る者一人一人が、その感情を追体験する。

特徴的なのは、この映画がアニメーションという手法で描かれていることだ。ドキュメンタリーにしてアニメーション。その理由は、やがて物語の進行とともに明かされていく。

「この物語は事実である」。その言葉から映画は幕を開ける

「この物語は事実である」。その言葉から映画は幕を開け、アニメーションでしか描けない世界観へと私たちは没入していく。長編アニメーションとしては初めて、第94回アカデミー賞で国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、長編アニメ映画賞の3部門にノミネートされた本作は、アニメと実写の境を超越したとも言える画期的な作品なのだ。

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【公式サイトより あらすじ】

アフガニスタン難民の青年の秘密をアニメーションで描くドキュメンタリー。子供のときに祖国を離れ、デンマークに亡命した青年が、その過酷な半生を告白する。

監督:ヨナス・ポヘール・ラスムセン

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ちなみに『パラサイト 半地下の家族』(*)のポン・ジュノ監督も「今年見た映画の中で最も感動した作品」と絶賛している。(*第92回アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の最多4部門を受賞。非英語作品の作品賞受賞は史上初)

上映中、私は3回ほど泣いた。困難な道にあって、ときに失望や不安や孤独に押しつぶされ、傷つきながらも、なお生きようとする登場人物の姿に、人間としての強い共感を感じたからだ。

映画をご一緒したのは知人のドキュメンタリー映画監督、杉岡太樹監督(「息子のままで女子になる」https://www.youdecide.jp/)。自らもドキュメンタリーの作り手として、独自の洗練された視点を持っている一人で、いつも刺激と学びをいただいている。上映後は、作品のストーリー性や技術的側面について一緒にお話させていただいた。

杉岡さんとの出会いは一年前。あるインタビュー企画の撮影でお会いした。映画製作をニューヨークで学び、普段はドキュメンタリスト(ドキュメンタリー制作者)として国内を拠点に活動。映画、ショートドキュメンタリーなどを制作されている。特にドキュメンタリーの持つ可能性や社会的役割について強い信念があり、“作品を作ることで、世の中がどう変わるのか。どのような変化を求めて何を伝えるべきなのか”をいつも考えている。表現者としての、そうした杉岡さんの姿勢を私は尊敬している。

その杉岡さんから、「すごくおすすめの映画」と誘われたのがこの作品。アニメーションと聞き、初めこそ「!?」と思ったが、作品を見るうち、アニメーションで描かれた理由を理解した。アニメーションでなければドキュメンタリーとして描けなかったからなのだ。そしてアニメーションであるが故に、実写作品では描ききれない真実をより深く理解する。『FLEE(フリー)』はそうした作品だ。

ここでは私自身の学びの記録として、クリエイティブに感じた杉岡さんのお話や、考えたことを以下に書きたい。

映画のポスターを一見しただけで、作品の視点が語られている

まず映画のポスターについて。「このポスターを見て、この映画を見ようと思った。日本にこのままポスターが来たのが嬉しいですね」と杉岡さんは言った。登場人物一人一人が描かれたこのポスターは、みんなが物語の一つという視点で描かれている。ヨーロッパ発じゃないとこういう視点はなかなかできないとのこと。日本人の感覚でわかりやすいように、日本だけ映画のポスターが違うということがよくあるそうだ。なるほど、ポスター一枚にしても、作品が伝えようとしているものを物語るものなのだ。

アニメーションで描かれる、ドキュメンタリーという手法

そしてなんと言っても、アニメーションでドキュメンタリーを描くという手法の斬新さが、この映画の第一の特徴だ。アニメーションは、写真のなかの男性がウィンクしたり、現実に起きていないことを起こし、人の心を再現できる。ただそれを生かすためには、「抑制されたドキュメンタリーのカメラワーク」を使う必要がある。つまり、もっとできるのにやらず、本物のドキュメンタリーのような視点から撮影する。そうやってアニメーションはリアルに近づけることができる。その上でアニメーション独自の空想が時々登場すると、見る側はイマジネーションの世界に飛躍しながら、現実に近づけるのだ。その方法に、杉岡さんも驚いたという。

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