ジョン・ハーシーの『ヒロシマ』

「1945年以来、世界を原子爆弾から安全に守ってきたのは、広島で起きたことの記憶だった」

                                      ————ジョン・ハーシー】

今年も8月6日がやってきた。

1945年8月6日、広島に原爆が投下されたあの日から、今年で80年目。日本に暮らす一人として、語り継いでいきたい日である。

『ヒロシマ』、という本をご存知だろうか。

原爆投下から約一年後の1946年、アメリカの雑誌『ザ・ニューヨーカー』で発表されて以来、現在でも、20世紀におけるアメリカの最も重要なジャーナリズム作品と見なされている。

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作者は、第二次世界大戦中、『タイム』や『ライフ』誌の海外特派員としてヨーロッパやアジア各地を転々としたアメリカ人ジャーナリスト、ジョン・ハーシー(John Hersey, 1914-1993)。

原爆投下後のアメリカでは、〝戦争終結のために原爆投下が必要だった〟という軍事的正当性が強調されていた。一方で、原爆の被害にあった人々がどうなったのかという、被爆者個人の視点や、人々に与えた被害の実態が、アメリカ国民にはほとんど知らされていなかったという。

しかしハーシーが、牧師や医師など、広島の被爆者6人の証言をルポルタージュとして発表したことで、アメリカ国民は初めて、原爆の具体的な被害について知った。


影響はそれだけにとどまらなかった。核兵器が何をもたらすのかという現実が世界に知らされたことで、その使用についての世界的な論争へと発展したのだ。

この『ヒロシマ』の特筆すべき点は、アメリカ政府や軍部による情報検閲をすり抜けて発表された、という点でもある。つまり、この作品にある原爆被害の実態は、その当時、アメリカ政府や軍部が隠そうとしたことだった。

現代の私たちが目にすれば、被爆者が原爆症の症状に苦しむ姿など、その内容は周知の事実として捉えられるものも多い。しかしこれらは、原爆投下から一年が経っても、アメリカ国民がほぼ知ることのできなかった、隠されてきた現実であった。

『ヒロシマ』が語るのは、原爆投下による、非人道的な惨状だけでなく、そうした事実をアメリカ政府や軍部が、市民に隠してきたという歴史そのものでもある。この本が、アメリカの20世紀ジャーナリズムにおける最も重要な一冊とされる所以だ。

90846091 hersey ap976.jpg.webp ジョン・ハーシーの『ヒロシマ』 ジョン・ハーシーの『ヒロシマ』

                (取材中のジョン・ハーシー。BBC NEWS Japan引用)

晩年、ハーシーは語っている。

「1945年以来、世界を原子爆弾から安全に守ってきたのは、広島で起きたことの記憶だった」、と。

原爆投下から80年。地球上では核保有が進み、核兵器の脅威は増すばかりだ。

それでも、いや、だからこそ、語り継いでいく。
同じ歴史が、繰り返されないように。

IMG 4954 scaled ジョン・ハーシーの『ヒロシマ』 ジョン・ハーシーの『ヒロシマ』

▼『ヒロシマ』
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▼ジョン・ハーシー
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%BC

(2025年8月7日)