一夜の美しい夢のような時間
6月13日〜24日開催の2年ぶりの写真展「あなたは ここにいた 〜燃やされた故郷パルミラ〜」。早いもので、10日間の会期が終了いたしました。
企画から準備まで、一夜の美しい夢のような、あっという間の時間でした。
会期中は10時から18時まで毎日ギャラリーに立ち、多くの皆様とお会いし、お話させていただいた忘れられない時間でした。全日、本当にたくさんの皆様にご来場いただきました。皆様、どうもありがとうございました。
今回の写真展は、2021年に故郷に帰還することなく亡くなった義父ガーセムへの私なりの追悼であり、2022年に行った11年ぶりのパルミラ取材の記録であり、そしてここ数年のシリア難民の取材の集大成でした。
改めて、発表の場をいただいたOM SYSTEM GALLARY 様、受付や搬入、搬出のお手伝いを快くお手伝いいただいた皆様、そして日頃から活動を応援し、支えてくださっている多くの皆様に心から感謝いたします。本当にどうもありがとうございます。多くの皆様に支えていただき、活動が成り立っております。
(いつも学ばせていただいている探検家、人類学者、外科医の関野吉晴さんと)
そして、慌ただしい準備期間や、会期中の遅い帰宅のなか、ほぼ家庭崩壊気味になりながらも我慢して応援してくれた(?)私の家族。
会期中は洗濯が回らず、掃除が出来ず、だんだん家の中がカオスになっていきましたが、子供たちは母の仕事を理解し(実際は、うるさい母がいなくてノンビリしたかも)、一人で宿題をし(たりしなかったり)、シャワーを浴び(たり浴びなかったり)、寝ることを覚えました(毎日かなり夜更かししてハッスルしました)。洗濯が回っていなかったのとあちこちに脱ぎ散らかすせいで、子供たちはだんだん靴下が片っぽしかなくなり、左右違う靴下を履いて学校や保育園に行っていましたが、そんなひとつひとつに、写真展による日常の変化をしみじみと感じるのでした。
さて、写真展の終了と共に、すでに次なる作品への製作の旅路が始まっています。次の作品発表の写真展は、おそらく2年〜3年後になるかと思いますが、より良い取材と発表ができるよう、日々努力と自省あるのみです。
シリア人の妻として、シリア難民をテーマとする写真家として、不安定な人生を自分で選び取りました。これからも迷ったり葛藤しながらも信念を持って、未知の世界に飛び込んでいきたいと思います。
写真展「あなたは ここにいた」の開催を応援いただき、皆様、どうもありがとうございました。また次なる発表の場で、皆様と会場でお会いできますその日が楽しみです。
(写真展の最終日前日、夫が子供たちを連れて来てくれました。子供たちは、会場に入るなり写真をほとんど見ずに会場を走り回り、プロレスをして取っ組み合い、スマホでサッカーの試合の動画を見てくつろいでおり、私は「そこでプロレスしないで!」「走るな〜!!」とだんだん鬼婆と化しました。本当は、夫が自分のかつての実家の写真を見て、どのような反応をするのかを観察し、撮影したかったのですが、会場で走り回る子供を追いかけてその機を逃してしまいました。無念!子連れ取材のパニックを思い出しました。子供が4人いますが、二人はシリア人ジャーナリストのナジーブ・エルカシュさんの息子たちです。4人でギャラリーを自由に闊歩しておりました。写真中央がナジーブさん、右端が夫です)
どんな写真展を目指したのか
写真展の開催にあたり、どんな写真展にしたいのか、私は手帳にこう書き記していました。
・難民とはどういう存在なのか。その問いかけがあること。
・私自身の視点、立場が反映されていること(何故私がこのテーマを撮ったのか、作者の物語もまた、反映されていること)
・そこに生きる人々の、人間性や喜怒哀楽、唯一無二の独自のストーリーが伝わってくること。
・(スマホなどで大量の写真があふれる現代において)限られた写真で伝えることがどういうことか、その問いかけがあること。
・答えを示すのではなく、見る者にメッセージを伝え、ただ静かに問う。答えは見る者それぞれが見出すもの、というスタンスで。
ただ写真を見るだけなら、スマートフォンでもいくらでも見られる時代です。しかしあえて、ギャラリーという空間で展示をし、そこでじっくり見ていただくことで得られる〝なにか〟があること。そのために、展示にもスマホでのスライドショーやスクリーンでの動画上映、具体的なモノの展示など、〝写真の見せ方〟を工夫したり、謎を含めることで多くの仕掛けを用意しました。
(会場では、パンフレットと共に「写真を読み解く」という紙を配布しました。明確な答えはそこにありませんが、それぞれに、作品の背景を考え、想像を膨らませていただくきっかけになればとの思いからでした。なかには、こんなにメモを書かれるお客さまも!)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
写真展の構成
以下は写真展の写真構成です。
ギャラリーには四つの壁面があります。入口を入って左側から時計回りに、A面、B面、C面、D面とし、以下のように写真の配置の図面を作りました。
図面の写真の部分は、紙の大きさの都合で2段になっていますが、実際はくっついた展示です。
●A面
「写真展の紹介文」「ガーセムとの思い出」
どのような写真展であるかを示し、お客さまを作品の世界観に導入する入口部分。かつてのシリアでの暮らしに触れ、義父ガーセムの死、何故パルミラに向かうことになったのかを示す。かつての、明るく活気に満ちたシリアでの暮らしは、スマホでのスライドショー機能を使って表示。今回の撮影写真と展示法を分けることで区別を図る。
「燃やされた故郷パルミラ」
パルミラが、どのように内戦に巻き込まれていったのか、そこで何が起きたのかを示す。住民のほとんどが街を去った現在のパルミラの、「影のような部分」を写真から彷彿とさせる。B面に続く。
●B面
A面に続く。
「ガーセムの家」
ガーセムが帰りたいと願い続けたパルミラ。そこにひっそりと残されていたガーセムの家の現状。静寂、荒廃、日常の喪失、思い出の蓄積を、そこに残されたモノから示す。また写真だけでなく、実際にガーセムの家から持参した砕けた床石、ぼろ切れなども展示。またカメラ撮影が許されず、スマホで撮影した写真はスマホでのスライドショーで示す。
●C面
「難民たちのポートレート」
パルミラから逃れ、トルコで避難生活を送る難民たちのポートレート。パルミラというルーツが、彼らとどのように結びついているのかを語ってもらい、エピソードを紹介。
●D面
「難民たちの日常風景」
トルコに暮らすパルミラ出身の難民たちが、どのように故郷との繋がりをもって暮らしているのかを、さまざまな観点から示したもの。
解説文には、以下の言葉を載せた。
「この10年ほど、シリア難民の取材を続け、次第に理解したことがある。それは、パルミラで生まれ育った者の〝故郷〟の概念だ。彼らにとっての〝故郷〟とは、雄大な沙漠や美しいオアシスなどのパルミラの景観ではない。淡々とした、しかし満たされた日常の積み重ねがそこにあったという事実であり、そうした日常を当たり前のように共に過ごした、愛する者たちの存在そのもの。それが彼らにとっての〝故郷〟なのである」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(左の壁がA面、正面がB面)
(C面)
(D面)
さて、写真展が終わっても、ゆっくり休んでいる暇はなさそうです。写真展から波及した嬉しい余波は広がっていくばかりで、ご来場いただいた方々やカンパを下さった方々へのお礼をしたり、新しいお仕事のお話を進めたり、ここからが次なる取材や発表への新しい始まりです。目指す表現の道へ、これからも信念をもって歩き続けていきます。
皆様、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
小松由佳